宮崎医科大学 耳鼻咽喉科学教室 松田圭二先生より、第5回目の投稿をいただきました。
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小児にはそれほど関係ないのですが、そろそろスギ花粉症の季節なのでスギ花粉症の話を。以前、他の雑誌に載せていただいたものですが参考までにお送りいたします。
1 はじめに
スギは日本固有の常緑喬木で、屋久島を南限、函館を北限としてほぼ日本全国に分布している。しかしスギ花粉症は太古の昔から日本にあった病気ではない。昭和38年、斉藤洋三氏がはじめて栃木県日光市で発見し、翌年報告したのがはじまりである。その後、全国的に爆発的な患者数増加があり、今では5〜10人に1人がこの病気にかかっているというまさに国民病と言える疾患である。今回はスギ花粉症について、症状と診断、治療法について概説したい。
2 スギ花粉症の成立機転
2-1 花粉への感作
コショウなどの刺激物が鼻にはいると誰でもくしゃみをする。スギ花粉症がコショウと根本的に異なるのは、花粉が鼻に入ったときに症状がでる人とでない人がいるということである。症状が起こるためにはその人があらかじめ花粉に感作された状態でなければならない。感作されるかされないかは遺伝的な素因であるというが、これだけでは近年の爆発的な患者数増加を説明できない。何年も無症状に過ごしていた人がある年突然発症するということはよくある。感作が成立し症状が発現したのである。一度感作されれば毎年決まってこの時期(2〜4月)に不快な症状がでることになる。
2-2 花粉が飛ぶ時期(症状がでる時期)
スギは沖縄、北海道を除く日本全土に植林されている。スギ花粉飛散は毎年2月上旬に南部九州地方から始まり、桜前線のごとく列島を北上していく。北部九州・中国・四国・近畿・東海地方ではだいたい2月中旬から下旬、北陸・関東甲信越地方では2月下旬から3月上旬、東北地方では3月中旬以降に飛びはじめ、その後約2カ月間飛び続ける。飛散開始日は暖冬では早め、寒いと遅くなる。自分の居住地方の飛散開始日を知ることはあとで述べる季節前内服療法をはじめる良い指標となる。ちなみにここ宮崎では、例年2月8日前後が飛散開始日です。
3 スギ花粉症の診断と治療
3-1 診断法
花粉が飛散する時期に一致して、鼻症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり)、眼症状(かゆみ、灼熱感、痛み)、のどの症状(かゆみ、イガイガ)、皮膚症状(顔やくびの肌荒れ、かゆみ)などが単独、または複数同時に現れる場合にまず疑われる。同時期は感冒や副鼻腔炎(ちくのう症)のはやる時期でもあり鑑別のためにいろいろな検査法がある。まずは、鼻でアレルギー反応が起こっていることを示す最も手っ取り早い方法として鼻汁好酸球検査がある。これは鼻水をプレパラートにとり専用の染色液で染めて鏡検するだけの検査で、時間も費用もかかからない。鏡検で好酸球を証明できれば少なくともアレルギー性疾患の存在が確実である。次に皮内テストも簡便、確実である。スギの抽出液を皮内注射し15分後に判定する。陽性であれば注射部位に発赤が出現する。このほか抽出液をしみこませた濾紙片を鼻粘膜において反応を観察する誘発試験、採血して血中のスギ特異抗体を測定する方法などがある。アレルギーかアレルギーでないかは、鼻所見(鼻の中を見る)、鼻のレントゲン(副鼻腔炎の有無がわかる)をも参考に総合的に診断される。
3-2 治療法
薬物療法が主体になる。飛散開始よりも1週間程度早い時期、まだ症状が出ないうちから内服治療をはじめると、飛散期間中、楽に過ごせるという報告が多い(季節前投薬)。飛散が本格的になり症状ができって治療をはじめると、よくなるまでに多くの薬剤と時間が必要になる。最近は、ねむけのこない薬剤も種々開発されており、以前と比べるとかなり薬剤の選択の幅が広がった。症状に応じて点鼻スプレー、点眼薬などの併用も有効である。一般にスギ花粉症の妊婦に対しては薬剤が使いにくい。胎児への催奇形性などの問題が完全に解決されていないからである。毎年症状が強くでる女性は、この時期をはずして計画的に出産計画を立てることが望ましい。
4 花粉を避ける方法
内服薬をはじめとする薬は、症状の発現を減らすことができるが、これにも限界はある。暴露される花粉の量が多ければ火事場に小便になりかねない。花粉を避ける工夫が症状抑制につながる。
(スギ花粉飛散情報の利用)
その年の花粉飛散量は、前年夏の積算日照時間に比例する事がわかっている。1999年夏に雨量が多く積算日照時間の短かかった九州地方の2000年花粉予想飛散量は少なく、暑い夏であった近畿以北では大量の花粉飛散が見込まれている。飛散が多い年はそれだけ症状も重篤化しやすい。季節前投薬など万全の対策が望まれる。また、最近は花粉情報が各地で報道されておりこれも利用したい。予報の要点は、前日までの実際の花粉飛散量のカウントと予想天気図からなされている。具体的には花粉は晴れた暖かい日中、前日まで雨で急に晴れた日、風の強い日、午前よりも午後に多く飛ぶことがわかっている。雨の日はあまり飛ばない。
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(日常生活)
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一般的にいわれている花粉対策には以下のようなものがある。
1)外出時にメガネ、マスクを着用する。花粉対策専用の物も市販されており着用する勇気のある人は使用するとよい。ごく普通のものでもしないよりはかなり効果はある。
2)外から帰宅したら玄関先で服をはたいて花粉を落とす。上着は脱いで室内着に変える。顔や手を洗い、うがいをする。
3)日中の窓の開放はなるべく避ける。経済的に許せば空気清浄機を使用する。
4)外に干したふとんや洗濯物をとりこむ時、はたいて花粉を落とす。または掃除機で花粉を吸う。花粉が大量に飛散する時期には外に干すことは避ける。
1)は花粉症である本人がとる対策。2)3)4)は家族全員の協力が不可欠である。
ふとんや洗濯物に花粉が付いていると夜間就眠中にも強く症状がでてしまう。完璧とはいかないまでも室内に花粉が少ない場所を作る工夫がぜひ必要である。
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5 おわりに
かくいう筆者も、2年前にはじめてスギ花粉症を発症した。家族の中では自分1人だけであり、原因は思いあたらない。ふとんを干さないと気持ちがわるいという妻をいかに説得するか、頭を悩ます日々がまたやってくる。 |
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