宮崎医科大学 耳鼻咽喉科学教室 松田圭二先生より、第4回目の投稿をいただきました。



  宮崎医科大学 耳鼻咽喉科学教室 松田圭二




第4回 気管支異物〜ピーナッツはダメ、ダメの話


いぶん前の話になりますが、日曜日の夕方に放送されるサザエさんの以前のエンディングを憶えておいででしょうか。今はジャンケンポンですが、少し前までは空中に投げたお菓子をサザエさんが口でキャッチし「ウグウグッ」とのどに詰まらせるいうものでした。実はこれをまねた小学生が本当に気管にものを詰まらせたのです(気管支異物)。治療を担当した耳鼻科医の指摘で、テレビ局は急遽エンディングを変更しました。
 気管支異物は大人でもまれに起こります。歯科治療中に歯冠(銀歯)が気管に落ちる事例がときどきあります。しかし、ほとんどは離乳期の乳児(1歳から2歳くらい)に起こります。ピーナッツなどの豆類が圧倒的に多いのですが、最近「うどん」も経験しました。
この時期の乳児は手に取るものを片っ端から口に入れます。したがって気道のほか食道異物、誤飲(たばこ、コイン、ボタン電池など)も多い時期です。回りの大人達が気をつければ防げるという意味でこれも予防可能な疾患です。



事例1)1歳6カ月、男児
盆で帰省した親戚の小学校4年生のお姉ちゃんと遊んでいた。お姉ちゃんはアーモンドチョコレートを食べていた。男児が物欲しそうにじっとみつめるのでかわいそうに思いアーモンドチョコレートをかみ砕いて男児の口に入れてあげた。男児はしばらく口をもぐもぐさせていたが、直後に咳をして青くなった。母親がすぐに気づき男児を逆さまにして背中をたたいたところ息を吹き返し泣いた。しかし、その後も咳が止まらず呼吸がゼーゼーいうため小児科を受診した。
 この例では、両側の気管支にアーモンドの破片が詰まっていました。乳幼児の気管支異物は圧倒的に豆類が多く(ピーナッツ、アーモンドなど)、母親へは啓蒙がすすみ豆類を与えるおかあさんはまずいません。問題は母親以外の人が与える場合で、経験した事例では、父親・患児の兄姉・親戚の小学生がいました。お母さん方は、ぜひこの周囲の人たちにも注意を喚起し不用意に物を食べさせないように指導することが大切です。もちろん、保育所での節分の日の豆まきなどは言語道断です。

事例2)1歳1カ月、男児
乳食として父親がうどんを4センチくらいに切って少しずつ与えていた。男児がうどんを口に入れているときに、誤って割り箸で男児の指をはさんでしまった。驚いた男児が泣き出した瞬間、うどんが気管に入ったらしく激しくせきこんだ。母親がすぐに気付き、男児を逆さまにして背中をたたいたところ2センチくらいのうどんが吐き出された。男児の口にいれた最初のうどんの長さよりも短く、気管に残っているのではないかと父親が心配して病院を受診した。胸部レントゲンで左肺が真っ白に写り、気管支異物を疑われて当科を紹介された。
 この例では、左気管支にうどんが詰まっていました。歯がはえそろうには少し早いこの時期に、うどんのように軟らかいけれど噛まないと形がくずれない食べ物を与えたのがいけなかったのかもしれません。しかし、
食事中に乳幼児を驚かせたり泣かせる様な事が起こると、食べ物はなんであれ危険だということをこの例からは学ぶべきです。離乳食を与えるこの時期に、食事中のこどもから目を離すのは禁物です。食事はおちついた環境でするようにし、テレビなどは消すようにしましょう。また、口に食べ物を入れているときに泣き出した場合には、慌てず取り出すことを心掛けましょう。

気管の内径は、その人の小指の太さくらいです。1歳児の気管の太さを想像して下さい。そこから更に奥の細い気管支に入った異物を取る作業が、どんなに危険で気を使うことか・・。窒息や肺炎の恐れもあり最悪の場合、死亡することだってあり得ます。
 我々耳鼻科医が、最もしたくない手術のひとつです。気管支異物は避けられる病気です。どうぞ、これを読んで下さった方は、周囲の小さなお子さんを持つ方々へこの事を教えていただきたいと思います。