宮崎医科大学 耳鼻咽喉科学教室 松田圭二先生より、第3回目の投稿をいただきました。



  宮崎医科大学 耳鼻咽喉科学教室 松田圭二




第3回 こどもの難聴のはなし

どもの難聴といってもその原因はたくさんあります。悪いところは外耳・中耳なのか?それより奥の内耳なのか?また、それは生まれつきなのか(先天性)、生まれた後に発生したものなのか(後天性)と大きく分けて考えます。
 外耳・中耳が原因であれば、それが先天性であろうが後天性であろうが基本的には治療でよくなります。しかし、内耳が原因であれば治療によっても良くならないと考えるのが普通です。我々耳鼻科医は、まずこの鑑別に全力を尽くします。今日はこれらのうち
就学前のこどもさんによくみられる病気の話をします。


■ 滲出性中耳炎〜痛くない中耳炎
来、空気が入っている鼓膜の向こう側の部屋(中耳)に水がたまる病気です(といっても本当は、ただの水ではなく滲出液がたまる)。症状は、軽〜中等度の難聴のみで耳痛がないため、発見が遅れがちになります。
「最近、聞き返しが多い。」「テレビのボリュームを上げる。」「後ろから呼んでもふりかえらない。」といった症状にお母さんや保育園の先生が気付き発見されることが多いようです。
 鼓膜をよく観察すると鼓膜の向こう側に滲出液が透見でき、鼓膜自体がへこんでいること(鼓膜の内陥)が多いようです。鼓膜の動きは低下し聴こえも少し悪くなっています。言葉を覚えるこの時期に人より聴こえないというのは、やはりハンデになるため治療を行うのが普通です。
因は上気道炎(かぜ)であることが多いのですが、これといって特定できないこともあります。周辺病変(副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎、アデノイド肥大など)が合併していると治りにくいので、これらの治療も一緒に行います。滲出液の自然排出を促す薬剤の内服や鼓膜切開による排液で治ることが多いのですが、このような治療を3〜6カ月行ってもなお治癒しない例では、手術的治療が必要になることもあります。
(鼓膜換気チューブ留置術、アデノイド切除、扁桃摘出術)。
予後はおおむね良好ですが、まれに、癒着性中耳炎や真珠腫性中耳炎といったより難治性の中耳炎への移行があります。


■ ことばが出ない〜生まれつきの難聴?〜早く見つけることが大切
まれつき耳が聞こえないお子さんがいます。
 上に兄弟がいてすでに子育ての経験があったり、近くに同年代の赤ちゃんがいてその子との比較をすることで、多くの親は1歳前後までには我が子の難聴に気付くものです。片耳だと言葉の発達も正常で気付かれないこともありますが、両耳の場合だと問題は深刻で急を要します。なるべく早く難聴を発見し聴力を補ってやる必要があります。聴力を補うのは早ければ早い程良く、3歳くらいがそのリミットと考えられています。その時期を逃すと、その子は一生言葉によるコミュニケーションができなくなります。
 難聴の有無は比較的簡単な検査でわかります。たとえ6カ月検診、1歳検診、1歳6カ月検診で異常を指摘されなくても、いつも一緒にいるお母さんがおかしいと感じるのであれば、一度耳鼻咽喉科で診てもらうことをおすすめいたします。難聴の疑いがあるこどもさんについて何もしないで言葉が出るのを待つという選択肢は現在ではあり得ません。
つい10年ほど前までは、聴力を補う方法は補聴器しかありませんでした。補聴器で十分な言語能力を獲得できない場合、今は人工内耳という方法をとります。


■ 予防接種で防げる難聴のはなし
1)おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)
たふくかぜ(流行性耳下腺炎)にかかると500〜1000人に1人は神経難聴になることが知られています。この難聴は聾型(全く聴こえない状態)で治療でよくなりません。多くは片耳ですが、まれには両耳ともなることがあり問題は深刻です。予防法はただ一つ予防接種のみ。おたふくかぜにかかったことがない人はこどもでも大人でもすぐに受けて下さい。


2)ふうしん
た、風疹(3日はしか)にかかったことがない女性が、妊娠中にこれにかかると生まれてくるこどもに難聴がみられることがあります(先天性風疹症候群)。これも母親の予防接種で防げる難聴です。

日本では、予防接種に伴う合併症がゼロではないという理由で、これらの予防接種は任意接種となってしまいました。つまり希望するものだけに注射するという方式です。そのため接種に要する費用も個人持ちで、若い親にとってはバカにならないくらい高価です。任意接種ではいくら社会的に啓蒙を促しても接種率が70%を越えることはないといわれています。しかし、はしか(麻疹)の自然感染に伴うリスクの大きさ(肺炎で亡くなるこどもさんがいます)は、予防接種の合併症で亡くなる確率よりはずっと高いと考えられます。また今後、妊婦の風疹予防接種率の低下に伴う先天性風疹症候群児の増加、おたふくかぜに伴う難聴の発生率の増加が予想されます。先進国のなかで、なぜ日本だけがこのような方式を取っているのか、はなはだ疑問です。